潜入捜査官 小暮翔人

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とつぜん藪が終わった。現れた小さな空き地には車が一台停まっていた。カオリはバタバタと暴れて翔人の背中から降りると、まっすぐ運転席に乗り込んだ。老婆とおなじく古びた車は、中にいる彼女の動きに合わせてギイギイと唸った。助手席のドアがバンと開かれる。 「ほら、早く乗んな」 カオリの運転はマッサージ機の肩たたき機能を思い出させた。辺りの木を薙ぎ払うようにして突っ走る。 やっとのことで山から降り、舗装された道路に出た。 「ひどい運転だったな。死ぬかと思った」 助手席でぐったりする翔人をカオリが笑い飛ばす。 「あはは。最近の若いのは、だらしがないねぇ。あとで美優ちゃんに教えてやろう」 「そういえば、美優とはどうやって連絡をとってたんだ? 施設の利用者が外と連絡をとるときは、全部AIの監視が入るだろ。どうやってバレずに情報を流してたんだ?」 「どうやったって、ただのメールだよ」 老婆はどこからか端末を出し、メール画面を開いて翔人に投げてよこした。翔人は画面を覗き込んだが、すぐ顔を上げた。 「なんだ、これ。暗号か? でも大抵の暗号ならAIも解読できるだろ」 翔人の間抜けた声に、カオリは大声で笑った。 「暗号ねぇ。まあ、暗号といえば暗号か。こいつはギャル文字っていってな、その昔、平成のいっときに、一部の年代の女子の間だけで流行ったんだよ」 「ギャル文字?」 「美優ちゃんも女子だから、読み方のコツを教えたらすぐに使いこなせるようになったよ。でもハナちゃんには分からなかったようだね」 老婆はさも愉快そうにガハハと笑った。翔人はもう一度、端末の画面を見直す。  ⊇⊇レょ<зナニ″ やはり翔人には読み解けなかった。 「平成やばいな」 すっかり暗くなった国道の両端に、郊外らしい大型店がポツポツと姿を現し始めた。老婆は更にアクセルを踏んだ。
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