潜入捜査官 小暮翔人

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外へのドアのロックも解除されていた。外は既に日が沈み、薄暗くなっていた。カオリは迷いのない足取りで暗い森へと進んでいく。その背中を追いかけながら翔人は尋ねた。 「どこへ行くんだ?」 「下山するんだよ。早く『安らぎの森』の管理下から抜けて、世間にこのことを公表しなくちゃ」 そのとき強い光が二人に浴びせかけられた。翔人は思わず腕をかざして光を遮る。聞き慣れたAIの音声が大音量で響き渡った。 「外出時間を過ぎています。お部屋にお戻りください」 ハナちゃんの姿を表示したドローンが5~6台、二人の周りを囲んで近づいてきていた。 「くっ、また徘徊者対策システムか」 初日に沼淵を質問攻めにしたときに聞いていた。認知症が進行して徘徊するようになった利用者をすぐに確保して自室に戻すシステムがハナちゃんには備えられている。その対象が翔人とカオリに設定されたのだろう。 「失礼だね、アタシはまだボケてないよ」 「大抵のボケ老人はそう言うんだよ」 翔人はサッと周囲を見回す。それぞれのドローンの間にはまだ広い隙間があるから、彼なら容易く突破できるだろう。しかし、この老婆はドローンの間を捕まらずに走り抜けられるだろうか。チラリと彼女を見る。曲がった腰、ダボダボのスカートから伸びる折れそうに細い足。走ったとしても、すぐに捕まるだろう。翔人は彼女の前にしゃがみこんだ。 「走る! 乗れ!」 カオリが迷っている気配を背中で察知し、腕を掴んで強引に担ぎ上げる。骨ばった細い手足は思った以上に軽く、つんのめりそうになるのを立て直して、翔人は駆け出した。ドローンの隙間を抜け、その向こうに広がる暗い森に入る。舗装された遊歩道をがむしゃらにひた走る。 「この辺で左に曲がって!」 背中のカオリが叫んだ。左手には藪が茂るばかりであるが、翔人は素直に彼女の言葉に従い、飛び込んだ。四方八方から雑草に突かれながら、無理やり押し進む。 「もうちょっと行ったところに車を用意してる。そこまで急いで」 「車? でも敷地内の通信はハナちゃんが管理してるから、自動運転車は動かねーぞ」 「平成ヒトケタ生まれを舐めるんじゃないよ。ちゃんと自動運転AI搭載前のイカした車を指定してるさ」
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