不変と行雲

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不変と行雲

「最後なんだからさ」と彼女は付け加えて言った。  すでに僕らの間では口癖のようになっているその言葉には妙な束縛力があった。最後の日である今日はカフェに行きたいらしい。  ふたり同時に玄関を使うのは久しぶりであったが、以前の窮屈さはもう残っていない。先に靴を履き、扉をあけて待つ彼女は部屋の中をじっと眺めていた。 「広くなっちゃったね」  そう言われて僕も振り返ると、確かにいつも僕らが暮らしていた部屋とは思えない景色だった。家具がほとんどなくなり、奥の方にはダンボールが重なっている。掃除もあらかた済み、新居同然となっていたが、入居時とは全く重ならず寂しさのみを感じた。
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