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言わぬが花だがいずれ散る
「中村くん、そろそろ閉館だけど」
教室の入り口からかけられた声で、ハッと目を覚ました。気付かないうちに眠っていてしまったらしい。教室の時計は、22時より少し前の時刻を示していた。
「……中村くん?大丈夫?」
「すみません、大丈夫です。すぐ帰ります」
慌てて口元に手を当てる。涎は垂れていなかったらしく、少しほっとした。
「急がなくてもいいよ、私は他の教室の見回りしてくるから。暖房と電気、消しておいてくれるかな?」
「わかりました、ありがとうございます」
「うん、お疲れ様」
塾長は扉を閉めて出ていった。廊下を歩いていく足音もすぐに聞こえなくなり、旧式のエアコンの音が強調される。
教室の壁に埋め込まれているリモコンを操作すると、エアコンはゴフンゴフンとエアコンらしからぬ音を吐き出しながら動きを止めた。3年前から同じ挙動を繰り返しており、もう寿命なのではないかと思われるこのエアコンだが、現役でこの教室の夏と冬を支えている。
ふと、リモコンの横に掛けてあるカレンダーが目に入った。1日から13日までのマスがバツ印で消されており、今日が14日だと教えている。
「……あと2週間」
大学の二次試験までの日数を数えて、小さな声で呟いた。
(350……いや、300点取れれば安全圏って、先生は言ってたっけ)
何度反芻したかわからない言葉を、また頭の中で思い返す。
センター試験は過去最高の点数を叩き出し、もう一つ上のランクを受験したらどうだ、と、しつこく勧められたことも思い出した。その時の、合格実績が欲しいという魂胆が透けて見えていた校長の顔が脳裏に浮かぶ。それを振り払うように、勉強道具を片付ける手を速めた。
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