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musica dystopia
あれから、四半世紀が過ぎた。
お前は男子テニス部の活動を終えて、学校をあとにしていた。
ウィンドブレーカーのファスナーを上まで閉めて、両手にはナイロングローブをはめていた。スクールバッグとラケットケースを背にし歩調も軽く、日も沈み、暗さを増していく街を歩く。
旧来のビル群の隙間に比較的新しい丸みを帯びた建築物が散在している。巨大なマシュマロのようだった。
人々が行き交い、お前は道を譲り譲られながら目的地へと一心に向かっていく。
無数の靴音。誰かの話し声。車の小さなエンジン音。どこかのサイレン。カラスが鳴く声。電車の無機質なブザー。節回しのない車掌の棒読み。
お前は苦笑いした。いくらなんでも車掌は気にしすぎだろう。多少の節回しくらい自分は文句をつけたりしないのに。
この街は音に溢れている。ただ、メロディーはどこにもない。
お前が生まれたころ、禁煙法が制定した。タバコはもとより害悪であり、健康を損なうものとして問題視されていたのだ。さらにお前が就学したころ、禁酒法も制定した。酔客による迷惑行為や飲酒運転による事故などトラブルやアクシデントのもとになることが問題になったのだ。つぎに矛先が向いたのは音楽だった。音楽禁止法は制定し三年が経過していた。音楽を取り扱うイベントやクラブなどでの迷惑行為や違法行為の防止による青少年の健全な育成を掲げての制定であった。
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