SIX RULES

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・プロローグ:殺し屋六ヶ条  裏の仕事を遂行する上で俺、五条晴彦ことハリー・ムラサメには守らなければならない信条が六つある。殺し屋としての、俺自身に課す六つの掟だ。  第一条、時間厳守。  第二条、仕事は正確に、完璧に遂行せよ。  第三条、依頼内容と逸脱する仕事はしない。  第四条、深追いはしない。  第五条、仕事対象に深入りはしない。  そして、第六条。これが何かって? そうだな、言ってしまっても良いが……。  ――――今はまだ、秘密にしておこう。 第一条:時間厳守。 /1  街の外れにある、一階部分が丸々ガレージになった少し大きな一件の白い家屋。そこが五条探偵事務所だった。  その二階部分にある事務所で、窓際のデスクへ長い両足を不作法に乗せながら、椅子の倒した背もたれに寄りかかるようにして一人の男が惰眠を貪っている。下がったブラインドの隙間から差し込む昼下がりの陽光に顔をしかめながら眠る、大きく前髪を掻き上げた黒いオールバック・ヘアのその男は、ハリー・ムラサメという名だった。  アルマーニのスーツジャケットを背もたれに掛け、ネクタイと襟元を緩めたワイシャツに包まれた上体を倒れた椅子の背もたれに預け。同じくアルマーニの黒いスーツズボンに包まれた脚を硬いマボガニー材のデスクの上に投げ出しながら、ハリーは眠り続けていた。天井で大きな風車めいたシーリング・ファンが回る中、静かな事務所の中で、独り眠り続けている。  実に緩やかな昼下がりだった。仕事が無い、暇だと言われればそれまでだが、ハリーはこんな静寂が好きだった。静かな事務所の中、こうして昼寝を貪るのが、ハリーにとって数少ない至福の時でもあった。  しかし――――そんな彼の心安まるひとときに無粋にも横やりを刺してきたのは、唐突に鳴り響いたインターフォンの呼び鈴だった。 「……誰だ、こんな時に」  何度も何度も、しつこいぐらいに何度も鳴らされるインターフォンに苛立ちながら、目を覚ましたハリーが億劫そうにデスクから立ち上がる。ふわーあ、なんて欠伸(あくび)をかきながら窓に近寄ると、ハリーは指先でスッとブラインドを掻き分け、窓から眼下の事務所前を見下ろす。 「……銀のサーブラウ」
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