マコトが靴を履く間に、嘘は地球を半周する。

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+ + + 「告野君って、運動苦手なんだね」 「そうだね。スポーツに本気になって指でも傷めたら ピアノが弾けなくなるから」 「ピアノ弾けるの!?」 「弾いたことはないけど、ポテンシャルはあるかもね」 天才ピアニストみたいな口ぶりに、またしても騙された。 チャイムが鳴り、五限目の現代文の先生が教室に入ってくる。 前を向く告野君の真っ直ぐな背中。 さっき体育館で、思い切りシュートを外した姿を思い出して、笑いを噛み殺す。 やっぱり背中に目でも付いているのか、告野君は肩越しに 一瞬だけ私を振り返る。 その目が、少しだけ不服そうで なんだかいつもよりも告野君のことを近く感じた。 先週の小テストが返されていくなか 私はひそかに鞄を探った。 ペパーミントグリーンの紙に、小さな白いアルパカのイラストが描かれた お気に入りのメモ帳。 ためらいながら、ボールペンで 心に浮かんだ言葉を、素直に書いてみる。 『ありがとう。 あなたのおかげで 大切なことに 気付くことができました。』 ほんの少し勇気を出すだけで、きっと世界は変わる。 それを、今日の私は身をもって知った。 だからどうしても伝えたかった。 臆病な亀みたいに、甲羅の下で体を縮める私を 強引に引っ張り出してくれた、その人に。 メッセージを書き終えた紙を土台から切り離し、丁寧に折りたたむ。 届ける前に失くしてしまわないように、セーラー服の胸ポケットに入れた。 ちなみに小テストは、可もなく不可もなく、という結果だった。 告野君はというと、クラス内で唯一満点を獲得し 先生に褒めちぎられていた。 「すごいね、告野君」 「こう見えてもIQ180なんだ。 転校する前の高校は、なぜか殺人事件が頻発するようなところでね。 数々の難事件を解決して、名探偵なんて呼ばれてたこともあったかな。 全ての謎は俺に解明されるために存在すると言っても過言ではないね」 安芸にそんな物騒な高校はありません。 「お祖父さんが伝説の名探偵で、とか言うつもり?」 「鋭いね」 それは全然違う人のプロフィールですよね。 相変わらず 告野君は、嘘つきだ。
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