苦い苦いチョコレート

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そこへメッセージが届いてスマホに目を向けた。 【ごめん。仕事が終わらない】 会えるか会えないか分からない弘樹君からのメッセージに、悲しみが広がる。 「チョコレートもうまくできないし、別にいいよ……」 心にもない事を呟いて、スマホに指を滑らす。 【お仕事頑張ってね。また今度】 自分から今日の約束をナシにすると、ベッドに飛び込んだ。 「不用心だな……」 上から呟くように聞こえた声に、そのまま眠ってしまっていたことの気づいて慌てて目を開けた。 「香織。これ俺の?」 口には私の作った焦げたガトーショコラ。 「だめ!それ失敗して……」 起き抜けでぼんやりしているし、急に現れた弘樹君にも驚くし、失敗したチョコレートを食べてるし。 もうぐちゃぐちゃの自分の気持ちが抑えられなくなり涙が溢れた。 「ねえ、これ俺の?」 ベッドの上に座り込んだ私の前に、弘樹君も座ると瞳を覗き込まれた。 「ごめんなさい。苦いでしょ?何度も失敗しちゃって……」 言いかけた私の唇がフワリと塞がれた。 「苦くないだろ」 優しい笑みを浮かべながら言う弘樹君。 そんな優しさに、温かい気持ちが溢れた。 「一緒なら……苦くないね。ありがとう。本当は会いたかった……」 零れ落ちた私の言葉。 「俺の方が会いたかったよ。絶対。ほら、香織からチョコレートを頂戴」 妖艶な雰囲気をまとった弘樹君に、私は息を飲んだ。 「私からって……」 少し躊躇する私の唇に、弘樹君は苦い失敗のガトーショコラを差し入れた。 「ほら」 促された私は、そっと弘樹君の口にチョコレートを近づけた。 それと同時にグイっと後頭部に手を回されて、キスがすぐに深くなった。 すぐに苦いチョコレートは甘い甘いキスと一緒に溶けて行った。 「ありがとう香織。好きだよ」 弘樹君はそう言って私を抱きしめると、もう一度甘いキスをくれた。 fin
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