胃カメラ奇譚

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胃カメラ奇譚

「明石課長お電話ですよ。田所クリニックの方だそうです」  仕入れ伝票とコンピューターの画面を見比べていた明石に、十メ ートルほど離れた資材課受付から半田由紀が声を投げてよこした。 「回してくれる」  明石は、ー田所クリニック? えっと、内科のかな?ー   記憶を手繰りながら一呼吸おいて、由紀の濃いマスカラを目印に声を返した。  内線二0六の電話が鳴った。  右横三十センチ程離れた白い無線子機を取り上げて耳に当てる。 「明石保さんですか?」   まったく聞き覚えのない声だった。 「あのう失礼ですが?」 「田所胃腸科クリニックの関係者で、樫山と言います。一年三ヶ月前の二月十二日土曜日の午後三時半から胃の内視鏡検査を受けられたでしょう?」  会社の血液検査で癌マーカーが引っかかり、田所クリニックで胃の検査を受けたことは思い出したが、昨年の二月かどうか定かでなかった。めんどくさいので 「ええ。たしかに」  適当に返事した。 「やっぱりそうでしたか。ちょっとお尋ねしたいことがございまして、お忙しい中御迷惑とは思いましたが、連絡させて頂きました」 「はああ……」 「明石さんは、田所クリニックが閉院したことは御存じですか?」
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