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「その短剣は、元はバナハイムにあったもの。はるか昔、アドニスの王がこの地に現れ青い目をした一人の王子を置いていった。その時、バナハイムの鷹の王はその王子を受け入れ、その証に短剣を贈ったとされる。そこに嵌められた石は天上石と呼ばれる貴重なものだ」
「天上石……?」
カルミアは短剣を見つめた。これが、まさかそんなに古く、歴史あるものだったとは。
「それを今、そなたが持ってこの地に戻ってきたということが、どんな意味を持つのか。そしてそなたを見い出した者がジアンであったという事が、どんな意味を持つのか」
リーヴは一旦言葉を切ると、カルミアとジアンを交互に見つめ、そして深く息を吐き出した。
「術師でも分からぬ。だが、カルミアが幸運を連れてやって来た。それは吉事であるとは言えよう」
ジアンは少しほっとした様子でカルミアを見下ろした。カルミアはまだ、短剣をじっと見つめている。
「大婆、占をありがとう。昼には皆を集め、カルミアの事を話すつもりだ」
「そうか……」
リーヴは薄闇の中にぼんやりと浮かぶ真っ白なその存在を見つめた。この美しい白き娘が、この|聚楽《ウル)に落とされた波紋だとすると、ここからどのような変化がこの国にもたらされるのか。
過去を知る者は、未来を見ることはできない。
リーヴは静かに瞳を閉じ、祈りの言葉を唱えた。
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