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670馬力の女
───カタナを振り下ろした後は振り上げ、相手のうちの誰かが銃弾を放とうとすれば籠手を振る。
近接武器と銃火器との間合いの差を詰めるのは、レオの動物的な嗅覚だ。
今までに死地で学んだ経験をもとに敵の動きをシミュレートする。
レオが次に横振りで敵を斬り、左手で銃弾を防げば、右前にいるアイツは空いた身体の中心線を狙って来る。
ほらな。
鋭い踏み込みで錐揉み状に前方で飛び出し、銃弾をかわし、カタナを広く持って周囲の敵に一斉にダメージを負わせる。
怯んだところに再びスコーピオンを取り出し、全方位へ砲撃。
レオの周囲1メートル半に生まれた間合いを、また踏み込んで詰めて斬りかかる。
レオは、弱い。
昨晩の一件……いいや、あのクソ女と出会ってから、レオの中の全てが覆された。
俺はミラノで最も上に立つ人間だと思っていた。
それが今やどうだ。
あのクソ女にレースで負けた。
ワイルドウイングの入団の際は、俺の撃ち損ないをクソ女に助けられた。
ネンブロ峠のレースでは、クソ女が簡単にパスしたポルシェに抑え込まれ、あろうことかポルシェをパスする際もクソ女の力を借りた。
ジロ・ラメンでの戦闘。
俺が倒し損ねたニホンザルに、クソ女は右目を潰された。
そして昨晩の一件。
ゾンダも、そしてジジも、救えなかった。
その時に自分を救ったのもまた、クソ女だった。
そのクソ女が誘拐された。
今度は俺が、アイツを助けるチャンスなんだ。
こんな障壁に。
数的不利などというシンプルな障壁に。
阻まれている暇などない。
何としてでも俺がクソ女を救い出す。
何人斬っただろう。
だが、それでもまだ足りない。
クソ女。
クソ女のためならば。
クソ女に、見栄を張るためならば。
こんな血飛沫、いくら浴びても、浴び足らない。
それほどに。
「クソ女の命はなぁ……テメェらの何倍も重てぇんだよッ───!!!!!!!!」
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