もしも最愛のあなたとの約束を守ったとしたら

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* 「おれ、絶対夏帆より長生きするから」 「いきなりなによ。私に早死にしろと?」 「あなたのこれからの人生全て、おれはちゃんと追いかけ続けるから。夏帆を一人で遺していなくなったりしない。寂しい思いをさせたりしない」  おれの生きている限りでは意味がない。夏帆が生きている限り、おれは夏帆のそばで愛し続けてみせよう。 「でも、女性の方が男性より寿命長いし、そもそも齋藤さんのほうが年上だし」 「それでもおれは夏帆より長生きする。死にそうになったら気合で何とかする」 「わたしがおばあちゃんになって、ボケて齋藤さんのこと忘れちゃったら? 誰この変な虫、ってなったら?」 「そしたら――」 * 「ルイボスティー、私大好きなんです」  リクエスト通りあったかいルイボスティー。 「出汁巻きもおいしいですね。料理お上手なんですね。羨ましい」  ルイボスティー、昔あなたがよく淹れてくれてたんだよ。出汁巻きはあなたが教えてくれたんだよ。そう言いたかった。あなたは料理上手でおれを下僕にして楽しく台所に立っていたんだよ。そう言いたい。でも、もしそれを伝えると今の夏帆は困惑してしまうだろう。 「ねぇ」  テレビを眺めている夏帆の横顔に声をかけた。夏帆が、私? という感じに少し首をかしげながら振り向いて白髪混じりの、しかしつややかな長髪がふわりと揺れた。 『わたしがおばあちゃんになって、ボケて齋藤さんのこと忘れちゃったら?』  約束したんだ。  特別な日。今日もあなたにプロポーズする。  夏帆がおれのことを忘れてしまっても、おれが毎日一目惚れする。夏帆にまたおれのことを好きになってもらうよう、おれは生涯夏帆を愛する。 「結婚しよ?」  始まったときと同じように、おれたちは毎日やり直す。違うのはただ一つ、抱きしめながらのプロポーズ。これくらいはどうか許して欲しい。 「お断りします」  始まった時と同じように、夏帆は毎日答える。違うのはただ一つ、無意識なのかかすかな記憶なのか、夏帆がおれの背中に腕を回してくれることだった。 Fin. 
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