太郎の一生

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 私がこの家に来て最初の夜。 「わぁ~。可愛いね~」 「ちょっと!この子は私のなんだから触らないでよ」 狭い浴槽の狭いお風呂の浴槽に浸かりながら、この家に住む幼稚園児の姉妹が私ともう一つを巡り喧嘩していた。それを父がどうどうと宥めている。 「こら。お前らが仲直りしないとコイツらを捨ててしまうぞ」 「え~それはいやだ」 「仲直りする~」  人間の子どもというものは単純なものだ。ついさっきまで喧嘩していたのにも関わらず父の一声ですぐさま仲直りして2人で遊び始めている。これが大人なら、きっとそうはならないだろう。私達のような大量生産されていて尚且つ自分に要らないものなら譲り合えるのだろうが、世界にあまり存在しない希少価値の高い物となると奪い合い、時に命をかけた争いにまで発展する。 しかもそれが収まるのにはかなりの時間を要するのだから場合によっては寧ろ子供の方が大人と言えるのかもしれない。 「そうだ!この子達に名前付けようよ」 「いいね~そうしよう」  そうこうしてる間に私達2つに名前を付けようという流れになっていた。私達には名前などない。あるとするなら(水に浮く!可愛いアヒルセット)くらいだ。 「ねぇ、何がいい?」 「う~ん、そうだなぁ~。私がこの子の名前つけるからそっちはこの子の名前をつけてよ」 「いいよ。せっかくだからせーのでいっしょに決めない?」 「分かった」 それからしばらく姉妹は二人揃って首を傾げながら名前を考えてくれていたようだった。その様子を微笑ましげに父が見守る。 「そろそろいい?」 姉らしき方が妹らしき方に号令をかけた。聞くところによるとこの2人は双子らしく正直どちらがどちらか私にはよくわからない。とりあえず背が少し高い方を姉にしておく 「うん!」 「じゃあいくよ?」 「「せーーーのっ!」」 ーーーーー【A few days later 】ーーーーーー  私の名前は太郎に決まった。そして何も語らない相方の名前は次郎になった。 なんとも安直なネーミングだろうかとも思ったが、そこは子供なのだから仕方ない。名前を付けてもらえただけでも私たちは幸せ物なのだ。 「今日も元気ですか~?」 「元気ですよ~」 今は私達を両者1個ずつ手に持ちおままごとのような事をしている。
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