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第十一章
ドアのチャイムを鳴らすと、ほどなくして「……はい」と弱々しい声が聞こえ、かちゃりとドアが開いた。そろりと隙間からこちらの様子を窺う亀井は、ぼさぼさの髪によれよれのスウェット。泣きはらしたのだろう、腫れぼったい目をしていた。来訪者が長瀬であると認めた途端、その顔がまた悲しそうに歪む。
「長瀬係長、もう東京に帰ったはずじゃ……」
「お前に、どうしても言っておきたいことがあって戻ってきた」
黒縁眼鏡の奥の瞳が不安そうに揺れる。
「な、なんですか?」
「とりあえず、中で話そう」
ドアをこじ開けるように肩を滑り込ませ靴を脱ぐと、ずかずかと部屋に入った。
「あ、えっ?」
慌てて亀井も後に続く。部屋の様子を見て、長瀬は驚いた。たった数日前、酔った亀井を運んだ時にはきちんと片付けられていたのに、今はテーブルの上や床にビールやチューハイの缶が転がり雑然としている。それを、亀井はあたふたと拾い集め始めた。
「すみません、散らかしてて」
「酒は当分やめるんじゃなかったのか?」
「す、すみません」
コンビニのレジ袋に空き缶をつっこみながらも、亀井は謝り続けている。
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