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カッティング
光をふんだんに湛える純白の布を前にして、亀井隼人かめい はやとは途方に暮れていた。このシルクサテンは、一メートル八千円もする上物だ。ウェディングドレス用なだけあって、派手な輝きはないが、真珠に似た気高い艶がある。
――失敗したら自腹で弁償な。
これ切っておいて、と布を渡されときに言われた言葉が、頭の中でぐるぐる回っている。プレッシャーが半端じゃない。
被服室には隼人ひとりしかいない。開け放った窓からは、初夏の朝風が吹き込んでくるものの、それを心地よく感じる余裕がなかった。唾を飲み込むと、その音がやけに耳に響く。
もし失敗したら。
「二万は飛ぶよな」
掠れた声が出てしまう。
手持ちの財布には千円札一枚と小銭が少々。隼人名義の普通預金には、中学に上がるまで親戚にもらっていたお年玉が手付かずで残っている。これらで弁償するしかないだろう。切る前からもう弁償金額をどう捻出するか考え始めている。情けなくてため息が出た。
なんで自分がこんな難易度の高い裁断を?
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