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「これ……今度の結婚式の?」
武はゆっくりと首をふり、奈々子の手に収まる箱をゆっくりと開けた。
月明かりにキラリと光る結婚指輪が二つ並んでいた。
「これは、お前と俺の為に買ったものだよ」
武は、奈々子の手から箱をとり、新婦が付ける結婚指輪を手に取った。
指輪を親指と人差し指で挟み、輪の中から夜空を眺める。
「お前の働くこの式場の教会で、その指輪を互いの指輪にハメるつもりだったのに……どこで、俺たち……間違えたんだろうな」
「どこで……って」
そう呟く武に、奈々子は何も言えないでいた。
”好きな人ができた”とフラれたが、その原因を作ったのは自分だという自覚が奈々子にはあった。
そして、武も、”待たされた”という理由があったにしても、過ちを犯したことで奈々子を責められない。
互いに罪悪感で上手く言葉が紡げず、月明かりが落ちる駐車場に二人立ち尽くしていた。
静寂を破ったのは、武の方だった。
一歩距離をつめ、武は奈々子の手をとると、指輪を奈々子の掌に握らせ、そのまま自分の方へと引き寄せた。
「ちょっと!武」
すっぽりと自分の胸の中に、奈々子をおさめると武は奈々子の背中に手を回した。
以前は、まるで凸と凹がぴったり合う様に、抱きしめられたらしっくりきていたのに、今は違和感しかなかった。
奈々子は、驚き武を押し返そうとするが、力を込められた腕を奈々子の力では振り払えなかった。
苦しそうに顔を歪めた武の泣きそうな声が、奈々子の耳を擽る。
「なぁ……奈々子」
俺たちやり直せないか……
奈々子と別れてから、武は何度もその言葉を飲みこんだ。
もう、逢えないそう思っていたから抑制できていた。
でも、こうも何度も顔を合わせれば嫌がおうにもあの頃の気持ちが鮮明に蘇る。
ましてや、武は奈々子を嫌いになって別れた訳ではなかったから、思い出は美化され心の片隅にいつもあったのだ。
「奈々子……俺たちやり直せないか?」
問いかけの答えを待たずに、奈々子の唇に武の温もりが触れる。
驚く奈々子の手から零れ落ちた指輪は、アスファルトに転がり無機質な音をたてていた。
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