第1章

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 「これは地毛です。証明書もあります」  「我儘言わないの」  また我儘だ。  母によく言われる言葉。  何が我儘なのだろうか。  「あなたのその髪色は他の生徒にも悪影響よ。  他の生徒が真似をし出したらどうするの?  あなたみたいに『地毛です』なんてふざけた言い訳をして」  「私のは言い訳ではありません。  私は事実、地毛です。  どうして私が、髪を意図的に染めて先生方に『地毛です』と嘘をつく生徒に気を遣って地毛を染めないといけないんですか?  私にはこうして証明書があります。それでも染めろというのならこの証明書は何なんですか?」  「屁理屈を込めないで。明日までには必ず染めてきなさい」  「でもっ」  「あなただけを特別に扱うことはできないの!  これ以上、先生を困らせないで。  他の親御さんからもあなたの生活態度に対して苦情が来ているのよ。  子供だからって何でも我儘が通るとは思わないこと。  アルビノだかなんだか知らないけど、自分の人と違う容姿を使って男子生徒にも媚びを売っていると評判よ。  全く、あなたの妹さんは社交的でいい生徒なのに、同じ双子でも随分違うのね。  一体、どんな育てられ方をしたんだか」  全くの濡れ衣だ。  男子生徒に媚びを売った覚えなんてない。  生活態度だって、授業を真面目に受けているし、成績も自分で言うのは何だが、良い方だ。  先生に反抗することだってない。  なのに、どうしてこんなにも責められないといけないのだろう。  私の何が悪い?  私は何を間違えている?  渡された白髪染めに視線を落とす。  アルビノはそんなにも悪い存在なのだろうか?  こんなにも迫害を受けないとダメな存在なのだろうか?  私と彼ら、どこが違う?  髪や目の色が違うだけじゃないか。  肌だって白いけど、日本人にだって白い人は居るし、ヨーロッパに行けばたくさんいる。  ここが日本だから私は理不尽な目に合わないといけない?  それともどこに行っても迫害される存在なのだろうか?  突然変異の化け物として。  同じ人間のはずなのに。  群れで生きる社会で、特異な姿を持って生まれた私に生きる場所はあるのだろうか? 第?章 5  私は家に帰り、部屋のゴミ箱に白髪染めを捨てた。  母は一七時まで仕事なので帰ってくるのは一七時半ぐらいになるだろう。  父は一九時ぐらいには帰ってくるはずだ。
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