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世界は薄いベールで私とそれ以外をわけているのだという感覚が幼いころからあった。
その薄い一枚の、向こう側にいるのか、こちら側にいるのか、世界はどちら側にあるのか、それは今でもよくわからない。
「おはようございます」
市立総合病院の医事課のドア、すぐ横には給湯室がパーテーションで区切られている。その向こうからくすくすと後輩たちの笑い声。ひそめているその声にすら私の声はかき消される。挨拶は大事です。わかってます。でも気持ちだけでも大事だともいうのでいいと思う。
十年前に改築されたという寒々しいほどすっきりとした院内とは対照的に、この部屋はどの机にもなだれ落ちそうなほど積み上げられた伝票。月半ばの今日はまだましなほうで、月末から月初めにかけてはさらに積み上げられた伝票に診療費計算担当の係員は埋もれてしまう。
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