三月三十一日のこと

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 いたずら好きの圭介(けいすけ)は、からかいまじりに言った。  幼馴染の中で一番遅くに生まれた私の誕生日は、四月一日だ。他の春生まれの子とは丸一年歳が離れているのだけれど、法律では三月末ではなく、四月一日までに生まれた子供が同学年になる。  加えて四月一日はエイプリールフールだから、私は友人達に誕生日を覚えてもらいやすかった。時にからかわれることもあったけれど。 「ちょうどいいや、こいつが二十歳になった四月一日に掘り起こして、みんなで花見しながら酒盛りしようぜ」  やんちゃな草太らしい発想だったが、それぞれが「大人になった自分達」を想像して喜んだ。    桜の木の下にタイムカプセルを一緒に埋めたのは、草太、麻衣、美里、圭介、私、そしてもう一人。あの時、楽しそうにそばで見守っていた男の子がいた。当時の私より小さくて色の白い、もの静かな男の子、(ひかる)だ。  ある日、お母さんと二人で町にやってきた光。そしてタイムカプセルを埋めた夏休みの後、再び町を出ていってしまい、それきりになってしまった。    彼にもう一度会いたくて、私はあの場所へ帰るのかもしれない。
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