青い春に、芽吹いた怪異。

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青い春に、芽吹いた怪異。

 春と呼ぶにはもう遅く、夏と呼ぶにはまだ早い五月の終わり。緑だけになった桜の木の下で、俺はただひたすらに雑草を抜いていた。東京の、それも渋谷区という立地にありながら、辺りは風に揺れる枝葉の音だけが静かに響いている。  私立空高学園。中高一貫のこの学園で、俺は住み込みの用務員として働いている。そうした環境だからプライベートは無いに等しいが、仕事は個人の裁量に任されているため、息苦しさを感じたことはない。『学校設備のメンテナンス業務』なんて聞こえはいいが、実際はただの雑用係だ。電球の交換や空調設備の点検、それに今日のような校庭の草むしり等、およそ責任からは程遠い仕事をしている。  だからといって、楽な仕事だと思われるとあまりいい気持ちはしない。責任を必要としないぶん、体力の消費が求められる。特に今日は、スケジュールを決めた自分を恨むくらいの労働量だ。 なんだよ、終日草むしりって。自分の計画性のなさに呆れながら、あらためて校庭全体を見回す。ぱっと見は気にならなくても、意識してみるとグラウンド脇や並木の雑草はやはり目に付く。     
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