15.まことの恋

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顔を上げることができない。 視線を感じて、どぎまぎした。 顔から火が出そうなほど。 また逃げるの? いいえ。 この恋から逃げないと誓った。 そう再び心に決めたものの、またためらってしまう… それではだめ。 このままじゃ、何も変わらない。 勇気を出してただ一言。 好きと言えれば。 それだけなのに。 ここいちばんで怖じ気づくなんて。 気づかれないようにチラリと見るのが精一杯。 目の前に土方さんがいる。 憂い、みたいな。 そんな顔しないで… 距離を縮めないまま。 まだ続いていた沈黙を破ったのは。 「ちょっとこっちに来い…あ」 わたしが裸足ということに気づく。 「えっ…!」 軽々とお姫様抱っこ。 距離が縮まると、心も繋がっていくようで。 手を胸元に。 逸る心を抑えるために。 同じように、土方さんもドキドキしてるのかな? 同じ気持ちなのかな? わたしの心がきこえる? わたしには土方さんの心がきこえる気がするの。 「待って…土方さん」 「駄目だ」 「だって、わたしっ…伝えたいことが…」 「言うな。俺が先に伝えなきゃならねぇんだ…」 下駄を脱ぎ、わたしを腕から降ろした。 「肩に掴まれ」 左、右とわたしの足に履かせる。 連れて行かれたのは、庭のあの場所だった。 薔薇が咲く、庭の奥。 恋に落ちた場所…     
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