0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「ぬああ」と、か細く力の抜ける声が出た。
私は風呂の中で一番力の抜ける場所は湯船の中だと思っている。
髪の毛を洗っているときは頭皮の汚れを落とすのにシャンプーでがしがし洗い、トリートメントで毛先を揉み込む。
体を洗うときにはボディーソープをウォッシュタオルに混ぜ込んでくっしゅくしゅに泡立てておかゆいところをめがけてこする。
それらの合間にもやれ今日一日はどうだっただの、この前のあいつの態度はどうだっただの、考え事ばかりしてしまうのだから休まっている気が全くしない。
しかし湯船はどうだ。
足を一本踏み入れた途端、さっきまで考えていたことがたちまち薄くなり、全身を湯の中に委ねた瞬間には頭の中が空っぽになる。
それゆえか、「ぬああ」なんて間抜けな声が出る。
私という人間は、なんとも単純に出来ているらしい。
最初のコメントを投稿しよう!