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――ここアマンデス王国には、二人の姫が居る。
正統なる血筋から溢れる気品。そして、周りの人間にも気を配る優しい心の持ち主、エミリア姫。
平民出身でありながら、その知識と手腕で初の王子側近へと登りつめた、公私ともに王子の右腕である、サラ姫。
「姫。私と一緒に踊っていただけますか?」
社交界に出席していた姫は、声をかけられ振り返る。そして、彼女は首を傾げた。
「どちらのことを仰っているのですか?」
サラは貴族に問う。エミリアとサラ、二人の姫が並んでいたからだ。しかし、貴族は戸惑った顔をする。彼が手を差し出したのは、サラだったからだ。だが、彼女はその手を取らない。ふいに違う人物が、彼女たちの名を呼んだ。
「サラ」
「エミリア」
サラはアスタの差し出した手を、エミリアはウィルバートの差し出した手を迷いなく取り、その場を離れる。アスタが意地悪い顔で訊ねた。
「今のは、自分って分かっただろ?サラ」
「エミリア様がいるなら、普通、エミリア様が『姫』でしょ」
「だけど、サラももう立派な姫でしょう?」
エミリアが否定すると、サラは首を振った。
「姫なんて柄じゃありません」
「では、何ならいいんです?」
「そうですね……」
ウィルバートの質問にサラは、少し考え込む。
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