祈り

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 マナの身体は柔らかかった。私たちは夏期講習が終わったあと、最近はこうして過ごすことが多い。マナも私も夏を持て余していた。自分の輪郭がマナの手で再び与えられる快感は、たぶん、男の子からじゃえられない。男の子がどのように自分に触れるか、私は未経験だから分からないけれど。マナの柔らかく整えられた爪先でくすぐるように、さぐるようにされることは、私に息の仕方を教える。マナの手によって私は再び生き返るのだ。まるで水槽のなかで生きる熱帯魚のように、私はやっと泳ぐことができるのだ。 「気持ちがいい」 ふふふ、と吐くような笑いがマナのくちびるからこぼれる。マナの手は真夏だというのに冷たい。私はマナの手を取って、私の熱い手のひらからマナへ熱が伝わる。 「温かいのね」  指先を曲げてマナの手のひらをくすぐらせると、マナは声を上げて笑った。マナは手のひらが弱い。 「くすぐったい、止めて」  マナは笑いながら、止めてと繰り返す。もう、止めてよ、と。そして笑い声が止まると、私はマナの視線とぶつかった。マナの濡れた瞳は甘そうで思わず舐めてしまった。 「こっちよ」  マナはくちびるを少しだけ開き、私を誘った。舌に誘われるように私はマナにくちづけた。それは蕩けるように甘く、そしてこのくちづけが呼び水になって私とマナは図書室の床に崩れ落ちた。     
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