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マナは夏期講習が終わった放課後の図書館で、目線を私に向けずそううそぶいた。口を尖らして、つまらないという表情を私に見せた。こんな幼い表情は教室では見ることができない。
「私もなにもなかったよ」
励ましにはならないか、と付け加えると、マナは悪戯っぽく笑った。
「ねえ。特別なこと、しようよ」
「特別って?」
私は聞き返すと、マナが上体を乗り出し、私の顔を覗き込んだ。
「キス、とか」
「ダメ」
なんで? とマナが聞き返すので、私は目線を床に向けた。
「特別なひととしかしたくない」
今どきキスのひとつやふたつ、好きやら惚れているやらで振り回される自分が、私は恥ずかしかった。
「頬を赤らめちゃって、可愛い」
マナが私の髪に触れた。私は視線を落したままだった。
「じゃあ特別なひとに、ならないとね」
それって、私が聞き返そうと目線をあげると、マナは彼女の柔らかいそれで、すかさず私のくちびるを奪った。
そのとき図書館の窓からひゅーっと音がし、爆発音が響いた。その閃光に私たちは驚いた。
「花火だ」
デスクライトしか光っていない図書館ではフラッシュのように花火の光が眩しかった。
「初ちゅーが花火の咲く瞬間って、ロマンティックだね」
初めてなの? と私が問うと、マナは首を縦に振った。
「えへへ」
マナは恥ずかしそうに、頭を掻いた。
「マナ、一瞬すぎて分からなかったよ」
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