お風呂のしあわせ

8/13
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
川嶋とは同じ高校の高卒で今の会社に入ったのだけれど、高校の頃はお互い知らない存在で、入社してからそうだったんだと知った。 営業と事務、職種は違うけれど、新入社員は私たち二人だけだったから、お互い切磋琢磨してきた。 そんな川嶋に恋心が生まれたのは自然なことだった。 でも性格も見た目も男っぽい私のことを、この男は同僚以外何者にも思っていないだろう。 今までプライベートで会うことは皆無だった。 よりによって、なんで私のお気に入りの銭湯(ばしょ)で会うことになるのよ。 そして、なんでこの狭い空間に一緒にいるんだか……気になって、コミックを落ち着いて読めなくなった。 ***** 「川嶋。」 1時間もこのままでは無理!だと思い、15分くらい経った頃、その場から小さい声で名前を呼んでみたけど反応はない。 そこにある川嶋の足首を握って思いきり()すってみたら「んんっ」と言って起き上がった。 「お、帰るか。」 「お疲れさま。それじゃあね」と、薄緑のカーディガンを羽織り、私は荷物をまとめてコミックを元の場所に戻しに行った。 戻したあとにさっきまでいたベッドシェルフをちらっと見てみたけど、川嶋はもういなかった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!