最終章 春の日の掛川さん

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「本当だったらピンクの列がずーっと続くんだよな」  一週間早かったら、川が曲がって見えなくなるまでずっと両岸を鮮やかな桜色が彩っているはずだった。 「また一緒に来ようぜ。次はちゃんと満開の桜並木の下を歩こう」 「そう都合よく仙台で用事ありますか?」  今回は都合よく友人の結婚式だったが。 「やまちゃんに会いに、じゃ不足か?」  ……は? 玉こんに歯を突き立てたままフリーズした。 「何言って……」 「結婚式があったのは嘘じゃない。でも本当はお前に会いに来た。これからもお前に会いに来たい。何十年後かも一緒に桜を見たい。あと下の世話は俺がしてやる」 「下の世話はせんでいい!」 と叫んでから、下の世話しか断らなかったことに頭を抱えそうになった。まるでそれ以外は肯定したみたいだ。キッとゆいさんを睨むと、してやったりな表情。玉こんの串を目ン玉に突き刺してやろうかと思った。  ぎゃあぎゃあ嫌味を言い合うだけだったゆいさんを初めて男性として意識した。そしてそんな自分にぞっとした――。 *  ある春の日。満開の桜のトンネルの下で手を繋いで歩く男女がいた。女性の空いた手には弁当の包みがぶら下がっている。 「久々に恵子の汗で炊いたご飯が食べたいな~」 「たまに私の汗でご飯炊いてるような言い方するな! 変態オジジ!」  左手薬指で環が光る関係になっても二人は相変わらずだった。こうしてぎゃあぎゃあ言い合うのが心地良かったのだと、恵子は指環をするようになってから気づいた。 Fin.
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