サリエリの庭

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サリエリの庭

シューベルトの面倒は、彼が九歳の時から見ていた。私は、彼に声楽を教えたが、その時、口を酸っぱくして言ったことがある。 「ドイツ語のような野蛮な言語を歌にしてはいけないよ。歌はイタリア語で作るのが、一番美しい。イタリア語以外の言語は、音楽に向かないんだ」  しかし、彼は言うことを聞かず、ドイツ・リートばかりを作るようになった。 仕方ないので、私は、彼に、ドイツ語をどう扱うと、マシな歌になるか、を教えた。 あまりの素晴らしい慈善活動の数々に、私は自分でも満足していた。 これ以上のことはできない、というくらいの、善いことをした。し尽くした。 人々は私を喝采した。誰も彼もが、私を尊敬してやまなかった。 善人の鏡、それが私の社会的な地位そのものだった。 「私はモーツァルトを殺してない」  私が看護師たちにはがいじめにされていると、 「高名な先生になんですか!」  と、叱る人が後ろからやってきた。  皆して、振り向くと、白衣を着ている。精神科医か。 彼は、名をマルクスといった。やはり、新しく赴任してきた精神科医だった。     
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