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“3年4組” という札がかかった 西校舎の 三階の教室。 今、ドッジボールをしていたのに ここでは、理科の授業を受けている。 オレも 泰河も、席は 一番後ろ。 泰河は 窓際の特等席だが、オレは 真ん中の列だ。 窓際の泰河が、一人挟んだ向こうから 消ゴムの欠片を オレに投げている。 ノートを取っていたオレが 泰河の方を見ると 泰河が今度は、丸めた紙を投げた。 三年生の自分の後ろから その紙を覗くと 『今日もテング探そうぜ』と書いてあり 思わず顔がほころぶ。 この辺りには、有名な天狗の伝承はなかったが オレの実家にある 郷土史や昔話の本に “近くの山に天狗が来訪した” というものがあった。 その天狗に 修行をしてもらった というものだ。 泰河は その話に夢中になり、オレ達は よく二人で 山へ 天狗探しに出掛けていた。 三年生のオレは、窓際の泰河に向かって 親指と人差し指で輪を作って頷いている。 「雨宮! 梶谷!」 担任の須崎先生が、厳しい顔で名前を呼ぶ。 「居残りして草むしり」 オレと 泰河が「えー... 」「またぁ?」と 小声で言うと、周囲の子達が笑っている。 オレの斜め前の席の、ポニーテイルの女の子も 振り向いて笑っていた。 川島杏樹
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