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目の前の男はビックリ顔から一転、フワッと優しく微笑んだ。途端に可愛らしい雰囲気になる。男はニコニコしながらスーツの内ポケットに手を入れ名刺入れを取り出した。その指が少し震えているように見える。
寒いからか、飲みすぎてるのか?
若い男は名刺を両手で持ち、悪戯っ子みたいな表情で言った。
「いつもお世話になっております。静谷です」
「しずや……ああ!?」
そうだ。この声は! なんてこった! 俺が毎日、一番話している相手じゃないか!
慌てて名刺を取り出し俺も自己紹介する。
「こちらこそいつもお世話になっております。……麻木です」
「ぷっ……ふふふ」
「あははは。なに? 奇遇だね? いや、凄い偶然だ! 初めて寄った屋台で会っちゃうなんて!」
静谷君はまた目を丸くした。
「はれ? そうなんですか? 僕もなんですよ? ここいつも常連さんでいっぱいで座れないんです」
昼間と違う、舌足らずなちょっと甘えた声。電話を通して聞くのとまた違う。いや、声の出し方が違うのか?
酔っているからなのか、知り合いに会えた安心感からなのか、仕草も妙に可愛い。昼間も確かに、たまに舌足らずな喋りをする時があった。その時も和んだ覚えがある。
というか……もっとクールな印象だったのに。
喋りも達者で、頭の回転が早くて、上へのゴマすりもきっと上手くて、出来る人間だからこそプライドも高いに違いない。
漠然と持っていた印象。でも毎日毎日、会話をして得た印象なのに、それがどこかへいってしまう。
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