スティグマ

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スティグマ

 目黒川沿いは、花見客で賑わっていた。あまりの賑わいぶりに、僕らは桜を見に来たのか人の頭を見に来たのか分からなくなるほどだった。目黒川は、散った桜の花びらで薄桃色に埋め尽くされている。花筏って言うのよ、と教えてくれたのは彼女だった。 「花筏か、うまれてはじめて見た」 「そう。これから何度見ても、きっと飽きないよ」  僕は先ほど自販機で買ったペットボトルの水を飲み、彼女は屋台で買った豚の三枚肉の串焼きを頬張っていた。ペットボトルの水は無味無臭だけれど、どことなく清潔な味がする。不純物を仲間外れにした味だ。彼女と目があうと、彼女は肉の刺さった串を僕の口元まで寄せてきたので、僕は素早く顔を背けてそれを断った。 「あのね、この間のことだけど」  この間、と言われ、なに、と訊き返す。 「七日前の三月二十日、サークルの集まりで、あなたが私に告白をしたときのことだけれど」  事細かに、さらには早口で捲し立てられ、僕は「ああ、そのことか」と慌てて頷いた。確かに僕はサークル内での花見の最中、彼女に告白をした。場所とタイミングこそ最低だったけれど、しかし僕の勇気はそのときが最高だったから仕方がない。     
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