第1章 クリスマスの惨劇

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 アッパー・イーストにある高級アパートメントは、ウォール街に弁護士事務所を持つオッドマン氏の社会的地位を現していた。広いリビングには英国アンティークの調度品が品良く配置され、重厚なダイニングテーブルにはクリスマスを祝う豪奢な晩餐が手付かずのまま並んでいる。  中央に灯されたクリスマスキャンドルが、主人の席に置かれたワイングラスの中で揺らめいた。  深紅の液体が満たされた、美しいカットグラス。だがその脚の下から成人男性の腕と同じ太さの黒い影が、テーブル端に向かって伸びている。硬く丈夫なウォールナッツ材をこのように変色させるには、かなり高温の焼きごてをあてなければならないだろう。しかしこれは、材質が焼けた焦げあとではなかった。  椅子の上と背もたれにも、座っていた人間の体格に近い影が焼き付いていた。テーブル下の靴あとは、まるで靴底に墨を塗って型どりをしたようだ。  床を検分し終えたカレンは、玄関に通じるエントランスホールに向かった。そこにもう一つの影が、焼き付いているからだ。  何かから逃れるように、ドアへと手を伸ばす黒い影。大理石の白壁に焼き付いたそれは、細い上体に豊かな胸元が判別できることからオッドマン夫人に間違いないだろう。2日前にクリスマス休暇をとったハウスキーパーの女性は、ノースカロライナの実家に所在を確認済みだった。     
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