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第三話 葛藤
「なぜ五パーセントも値が落ちる? このパーツは新機軸のアクチュエータを実装して新規設計したはずだ。設計上、同等かそれ以上の値が出なければならない。俺は全力でやれと命じたはずだ!」
アシュラムの怒号がスピーカーから響く。
うるさいな。
たかが左腕マニュピレータの出力が、五パーセント低下しただけだろうに。
私はクレイドルの実験棟の一室にいた。
先の戦闘でほぼ使い物にならなくなった部位を、新規開発、そして『改良』したというパーツに置き換えられ、今はそれぞれの連動試験の真っ最中だ。
五パーセントも出力が落ちた、とアシュラムは納得していないようだが、実用上、人間の手足を引きちぎるには充分な能力だ。
トータルの性能として、回収前後でさほど大きな差分はない。
「アヤ、もう一度だ」
強化ガラス越しに、アシュラムはスピーカーを通じ命令を発した。
私は基本的に、クレイドルの人間の命令に逆らえない。
それがどんなに無意味な命令であってもだ。
私は命令に従い、床に固定されている棒状の金具を左手で握り、合図を待った。
ぎし、と金属が軋む音がした。
「やれ」
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