6章

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 馨は正気に戻ったみたく慌てて着物を身に着けている。その横で吟次は壁に背をもたれさせ、まだ素っ裸だ。 「なんでぇ、そんな焦らなくてもいいじゃねぇか。人に見られたら嫌なのかよ」  甘い時間が終わりを告げたのがちょっと不服そうだ。畳に無造作に投げ捨てられている帯に馨が屈んで手を伸ばす。それをひょいっと先に拾い上げ得意気に笑ってみせる。 「悪戯はおよしになすって、返して下さい」  確かに事情の後に慌てて衣服を身に着けるなど無粋と知りながらも、そろそろ人が会場の戸締りを確認しにくる時間だ。  こんな格好を見つけられたら明日からの公演がどうなるだろう。考えるだけで恐ろしかった。  先程までは素直で可愛らしかった馨が掌を返したように本気で咎めてくるので吟次は眉間に皺を寄せる。そして「俺が着付け手伝ってやるぜ」と何か魂胆を含めて立ち上がり帯を巻いてやる。 「…私はいいから吟次さんも早く用意なすって下さいな。そんな格好でいたら…」  ぶつぶつと文句を言う馨の背後から突然に腕が回され、拘束されてしまう。 「やっ、離して下さい!」  身を捩って腕から逃れようと贖う。せっかく結んだ下帯を吟次は器用に片手で解いてしまう。ばさっと音を立てて着物が開いて、そこに吟次が手を忍ばす。
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