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目が覚めると、音が鮮明に聞こえた。
聞き慣れた起動音のあとすぐに「マスター、今日はいかがなさいましょうか」という女性の声が鼓膜を震わせる。
ぎこちなく動く機械独特の音が減ったことを考えると、アンドロイド業界は日進月歩なのだと改めて思い知る。
僕はその劇的に進化していくアンドロイドの姿をまだ見たことがない。ただ、名前がミヤビであることは知っている。
「ミヤビ、今日はすぐ出かけるから軽めで」
「かしこまりました」
わずかに右頬に風が触れ、ミヤビが離れていったのを感じる。
僕の視力以外の五感は鋭利な刃物のように研ぎ澄まされていた。何かに触れる感触や鮮明に聞こえる耳は、視力をも補う力を大いにもっている。
そう、僕はいわゆる全盲だ。目を開けても、真っ暗な世界がずっと広がっている。
そのことを最初から受け入れられたかと言われれば、もちろんそんなことはない。最後の映像は余りにも残酷で、そして、僕の父と母を奪った惨劇そのものだったから尚更、受け入れ難いものだった。
母と父の笑い声が一変し、車のブレーキが効かないという切羽詰まった会話を耳にして、目を開けた瞬間、目の前に大きなトラックがあった。
「そういえば、明後日はマスターの十七歳の誕生日ですね。その日は、いかがなさい……だ、大丈夫ですかマスター汗がひどいですよ」
この家庭用アンドロイドのミヤビは高性能らしい。容姿もまるで人間のように作られ、声もあまり人間と大差ない。ぎこちなさが失われ、人間らしさを手に入れたアンドロイドというのがキャッチコピーである。
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