《28》

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「武田信玄と織田信長の間で同盟が成された」 家康が言うと、今度は一同からどよめきが起きた。 「武田信玄の嫡男勝頼と織田信長の養女の間で婚姻が結ばれたらしい」 「武田、織田が結んだなら、信長と盟を結ぶ我らも武田信玄と間接的な同盟が生じた事になりますな」 忠世が少しだけ上気した表情で言った。 「もともと、公卿の匂いが濃い今川氏真を武田信玄は嫌っている節があり、どこかの機に切るつもりでいたらしいのだがな」 「織田信長からの婚姻申し入れがその機になったというわけですな」 忠世が言う。 「そうだ」 「1度、甲斐に使者を送り、武田信玄の腹を知る必要があるかと思います」 言葉を挟んだのは康政だった。康政の軍師然とした姿は中々堂に入っていると忠勝は思った。 「武田と織田が結びついたからといって、遠江侵攻に憂いがなくなったと考えるのは早計です。武田信玄は我らの事を今川領を切り取る上での競い相手と考えているかもしれません。私は近々甲斐に発ち、武田信玄に直接会ってそこら辺りを探ってまいりたいと思いますが、いかがでしょう」 「そうだな、康政」 家康が言った。 「お前に言われて、いかに自分が安易な考え方をしていたかよくわかった。その通りだな。盟が成ったのは武田と織田であり、我らではない。そうだ、武田との直接交渉が必要だ。その交渉、わしはお前に一任したい。やってくれるか、康政」 「はい、身命に変えてでもその任、成し遂げます」
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