出会った頃はこんな日が

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心を読めるという人間に出会ったら、普通は頭がおかしいんじゃないかと疑う。 もし仮に信じたとしても、わざわざ一緒にいるという選択はないだろう。 俺だったら嫌だ。 自分の心が読まれるなんて、きっと地獄絵図だ。 俺は微笑みながら、汚いこと、小賢しいこと、酷いことを考える。 誰もが一瞬にして引くような、そんなことを考えているときがある。 自分が死にたいという気持ちならまだいい。 人を恨む気持ちや、それこそ手に掛けてしまいたいと思うこともある。 そんな気持ちを全て白日の下に晒すことはできない。 俺とまではいかなくとも、誰だって汚いことの一つや二つ考えるだろう。 嘘だって吐いている。 それを知られるのは、誰だって嫌に決まってる。 俺は、人の嫌がることをやっている。 好きでやっている訳ではなく、勝手に頭の中に飛び込んでくるのだけれど。 この能力のせいで、俺は天涯孤独で汚れた人間に成り下がってしまった。 何度もこの能力を呪ったし、今すぐなくなって欲しいと思ってた。 けれど、今一緒に歩いている男は、俺が心を読める能力があると薄々勘づきながらも、俺といることを選んだ。 それは、彼が口下手で無表情で人から誤解されやすいタイプだからこそだと思う。 彼は、俺が真意を読み取るのを良しとしている。 コミュニケーションが面倒くさくないということだ。 口下手で正確な思いを伝えることができない彼にとって、俺のような男はうってつけなのだ。 ――――知られなさすぎる彼と、知りすぎる俺と。 ひょっとしたら、すごく相性がいいのかもしれない。 自分の能力が役に立つことができる喜びがあった。 それと同時に、この能力でもっと彼のことが知りたいとルール違反の狡いことを考えるようになった。 俺は、大嫌いな能力が、ほんの少しだけ好きになれた気がした。 「……ねぇ、やっぱり手を繋いでもいい?」 「……からかうな」 「はぁい」 本当にぶっきらぼうで、口下手で、真面目な刑事さん。 俺はまたクスクスと笑ってしまった。 こんな調子でも、俺の能力さえあれば、きっといい友情関係を築いていけるだろう。 だって、この人は優しいことばかり考える。 自分のことより、人のこと。 そんな彼だから、俺を拾ってくれた。 家に着いたら、聞きたいことがある。 俺がどうしても読み取れないもの。 ――――ねぇ、君の名前は? ――終――
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