それは始まり。

4/6
114人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
─── 好きな反面、この人の言うことには逆らえない。だけど、あの人はそんな僕の気持ちに気づいてか気づかないか、いつも僕を振り回す… まるで、 あの人の手のひらで転がされるようにいつもいつも振り回される、そんな自分に吐き気がして嫌悪して… あの人の手のひらから逃げるように姿を消したのに、随分呆気なく見つかったものだと我ながら覆い隠すことも忘れた溜め息が唇から漏れていく。 自分が捻くれた性格なのか、 那智さんが見つけてくれた、那智さんの役に立ちたいという想いと、まるで甘くて甘美な果実のように… 蜜の花のように僕を囚えるあの人の声に、あの人の視線に… なんで僕を捜したのか、見つけたのかと非難する気持ちが同時に、複雑に交差する───。 『……改めて』 電話ごしに、けれど何故なのか。 不意に後ろからも聞こえたその声にハッと弾けたように顔を向けた。 『やあ、久しぶりだね』 ピッ、と不意に途切れる電話の声。ツーツーと無機質な電子音が響くソレがするり、と手のひらから落ちていく。 ゴトッ!という音に、目の前のその人はソレを拾う。歩く度にカツン、と鳴る靴はよく磨かれた高そうな靴で、ブランド物の高いスーツを着こなした目の前の男性はオールバックヘアの艶のある少し茶色のかかった髪に、少し垂れ目の… 物憂げな眼差しの美丈夫。見覚えのある、それでいてたった今話していた電話相手に僅かに口が震える。 『あはは…。驚きすぎて携帯を落とすなんて動揺、キミらしくないね』 カツン!と高級そうな革靴を鳴らし、 『はい、キミのだよね?』 あの人はそう言って飄々とした大人の余裕を持って、あの垂れ目の眼差しを少し開いてその奥の鋭い視線を僕に向けた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!