おかしな名前の男3

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「率直に言いますと、当局の捜査状況は芳しくないですね。一撃で殺せる程の至近距離に居れたから犯人は被害者の顔見知りである。なんて推理の初歩でしょう。むしろそこまでなら誰にだって考えつく。問題はその顔見知りの中の誰が殺したか、なのですから」 「そりゃあ海老石さん、現実に起きる事件の捜査なんてそんなものでしょう。鮮やかな推理で探偵が快刀乱麻の活躍をするのなんて活字の中での話ですよ。私も職業柄、現職の刑事の話を聞くこともありますが、やはり必要なのは根気らしいですよ」  現場百遍というのは誇張でもなんでもなく、現実の事件をひとつ解決するのにはそれくらいの労力が必要なのだ。その労力を向ける先を少しでも間違えれば、そのほとんどが徒労に終わってしまう。 「江上先生が言うとより説得力がありますね。確かに仰る通りです。それが警察という組織であり、地道な捜査こそが彼らの大部分を占めている。それを僕は悪いことだとは思いませんよ。ひとつひとつの可能性を潰していけば、きっと犯人にたどり着くでしょうから」 海老石はそこで言葉を区切って、陽介を見て言った。 「それでも、ごく希に探偵が警察に先んじて事件を解決することはあります。江上先生、僕はあなたが犯人だと思うんですよ」
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