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<ゲドマだって? あいつが、生きているのか?>
イルスが叫ぶように言った。
<生きているどころではない。力を蓄え、多くの人間を操り、日本というこの国を変えてしまうほどになっている。能力も高まっている。今はもう、我々がヤツの存在を探り当てることもできなくなった。すぐそばにまで迫っていたとしても、わからない。とても危険な状態だ。早く、何とかしなければ>
「どうして絢葉ちゃんを狙っているんだ?」
鷹西が訊いた。
「彼女の高いエネルギーを感じとったんだ。それを我がものにしようとしている。自らの力を増強するために」
里中が端的に説明する。
「とにかく、急いで秦野署まで戻りましょう」と夏美が提案した。「多くの警察官を動員すれば……」
<いえ……>とイルスが応える。<ゲドマが本気で暴れたら、大変なことになる。多くの人を巻き込み、犠牲者を増やすより、ここで迎え撃った方がいい>
「ここでって、どうやって?」「迎え撃つといっても……」
夏美と鷹西が同時に言い、顔を見合わせる。
<イルス、まさか……>
タリクが何かに気づいたように言葉を詰まらせた。
絢葉は不安に震えていた。だが、その時、何かが彼女の奥底を揺さぶった。まるで絢葉の内部だけで、激しい地震が起きたように……。
「ああ……」と絢葉が声を漏らすと、全員の視線が集まった。
「何かが来る」絢葉は胸の中で感じたことをそのまま口にした。「何か、とても悪くて、暗くて、恐ろしいものが。もうすぐそこまで来てる」
まわりで皆が動く。鷹西や夏美、そして里中は身構え、三ツ谷は外を確認する。
「だめ。ああ……。それは、空から」絢葉が空を見上げる。そして、激しいイメージを得て叫ぶ。「みんな、伏せて。伏せてください。早くっ!」
絢葉が叫ぶと同時に、空から別荘の中心に向かって稲妻が奔る。
耳を劈くような激しい爆音を響かせ、別荘全体が衝撃で揺れた。
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