タマ

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タマ

その夜、人の姿をしたタマは、私に深々と頭を下げた。 「お陰でご主人との思い出の品を届ける事ができました。ありがとうございます。」 「ううん、私も満足できたからいいよ。」 私は心の底からそう言った。 「これからタマはどうするの?」 「タマはご主人のお墓を守ります。タマはこれからもご主人と一緒にいます。」 タマも満足そうだった。 「何かお礼をさせて下さい。」 タマは私にそう言った。 「お礼はいいよ。それよりは、私もタマみたいな猫を飼いたいな。」 私はそう答えた。 …そういえば、今日はやたらと眠い。 思えば、昨日の深夜から寝ていなかったか…。 私はタマと話している途中だというのに、そのまま眠りに落ちてしまった。 翌日の早朝。 もうタマの姿はなかった。 僅かな日数を一緒に過ごしただけなのに、私は寂しくなった。 すると外から、ニャーニャーとタマの鳴き声そっくりな猫の声がした。 私は「タマ?」と言いながら部屋のドアを開けた。 部屋の正面に、タマによく似た子猫が一匹、ちょこんと座っていた。 首輪はしていなかった。 子猫は私にすり寄ったかと思うと、自分から私の部屋に入って来た。 あぁそうか、タマが約束を守ってくれたのだ。 私は直感でそう思った。 私はその子猫を抱き上げ、飼う事を決心した。 名前は「タマ」、買う首輪のデザインももう決まっていた。 あれからネコマタのタマは二度と現れなかった。 タマは元気にやっているだろうか、たまにそんな事を思う。 いざとなったら、タマのご主人のお墓に行けばいいか。 思えば、タマと過ごした時は、立ち入り禁止の場所に入りまくった気がする。 でも立ち入り禁止のその先へ踏み出したからこそ、この結末があるのだと思う。 だよね、タマ? さぁ、今日も仕事だ。 私は今、猫のタマと幸せに暮らしている。
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