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気味が悪いほど静まりかえった町の中で、シェイドとルーヴは近づいてくる何かに対して意識を集中した。
「紫眼は使うな」
眼を険しくすがめるシェイドに、ルーヴは釘を刺す。
紫眼で探索せずとも、相手はこちらへ近づいてきていた。
木々の幹を掠り、枯れた草を踏みしめる音が聞こえる。
シェイドは杖の柄を握り、中に仕込んである魔剣をいつでも抜き放てるよう身構えた。
張りつめた空気の中、月下に現れたのは四足歩行の黒い魔物だった。
獣型の魔物は珍しくない。
姿を見るところ、大陸各地に生息する肉食の魔物ケレヴだ。
ルーヴのように尖った耳や、鋭い犬歯の覗く口元。すらりとした細い体躯は、狼に近い姿だ。
非常に好戦的で単独行動を好むが、人里近くには近寄らない臆病さを併せ持つ。
故に町中に姿を現すはずはない。
そのはずなのだが、
「こいつ、本当にケレヴか? 背中から触手が生えているが・・・・・・」
シェイドの疑問に、元の巨躯へ変化したルーヴは頷いた。
「匂いはケレヴで間違いない。だが、普通のものと違って、甘ったるい別のにおいも香っている」
色も違う。ケレヴは黒ではなく茶色い毛並みだ。
もしかすると新種のケレヴなのかと思案しているシェイドに、謎の魔物は突如触手を伸ばした。
とてつもない速度で襲来した触手を、咄嗟に魔剣で切り刻む。
肉塊となって地面へ落ちた触手は、溶けるように塵となって消え失せた。
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