桜の木の下で

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桜の木の下で

 改札を抜けて駅を出ると、駅前の桜並木は見事に満開だった。  いつもより早い電車に乗ったので人の姿は多く、学校へと向かう学生が大半だ。きっと去年の再現のような光景だと思う。私は、身長も体重も胸もあの日とほとんど変わっていない。あの日から変わったのは、新品の制服がちょっと色あせたことと、乗っている電車が数本遅くなったことくらいかもしれない。  高校に入学して一ヶ月ほどは、この電車に乗っていた。最初にこの電車に決めたのは、間違えても遅刻をしないためだ。新しく始まる高校生活に期待があったわけではない。考えていたことと言えば、失敗して悪目立ちすることだけは無いようにしようということくらいだった。  そのおかげで、始まった高校生活は穏やかなものだった。部活にも委員会にも所属せず、話をするのはほとんどがクラスメイト。良い意味でも悪い意味でも、注目されるようなことは一年間一度もなかったし、感情の起伏もほとんどなかった。  きっと、一番感情が揺さぶられたのは去年の今日。あの桜の木の下でだったろう。  改札を通過するためにかざしたスイカが「ピッ」と音を立てて、それで一つ息がつけた。     
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