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 雨の中を走って辿り着いた店に飛び込んだ真白は、「酷え雨だ」と切れた息の下で呟き、さぞ濡れてしまっただろうと、なつを慌てて下ろす。 「あれ」  實親の纏っていた袍に包まれているなつに目を瞠り、それに触れようとするが、やはり空を切るだけで実体はない。(ひとえ)姿の實親が袍を取り上げ、ふわりと翻すと元通りの直衣姿になった。  なつを見ると、あれだけの雨の中を走って帰ってきたにもかかわらず、湿ってもいない。  不思議なことができるものだ、と感嘆の息を漏らしたものの、ふと思い至って半眼で實親を見る。 「……それを俺にも被せてくれれば、こんなに濡れずに済んだんじゃねえのかい」  きょとんと見返した實親は、今気付いたと言いたげに手を打った。 『言われればそうだな。そこの女人しか頭になかったよ。すまなかった』  悪びれたふうもなく言われ、真白は口をひん曲げて顔を顰める。  濡れた着物を脱ぎ、手拭いで体を手早く拭いて着替えを済ますとやっと人心地着いた。  なつは取り敢えず布団に寝かせてはいるが、今のところ目を覚ます気配はない。 「……目が覚めて何も覚えてなかったら、なんて話してやりゃあいいんだろうな」     
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