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酒を飲んで眠る癖がついてしまってから、ずいぶんになる。 飲まなくては眠れない。たまに酒が切れると、眼が冴えて朝まで一睡もできない。 たまに睡った時、待っていたかのように悪夢が襲ってくる。 あるいは夢とうつつの境目が曖昧になり、目をつぶっていると何か色のついたぶよぶよしたような手触りをもった何かが瞼の裏に迫ってきて、いつの間にかその中に取り込まれている。 これは夢だ、と必死になってその世界から頭を―というより身体を引きはがすようにして目覚める。 目を開けると、天井に夢の世界そのままの極彩色の紋様が浮かんでいたりする。 目覚めれば悪夢、というか、依って立つ現実感が足元から崩れていくようなそういう時の恐怖は喩えようがない。 だから眠らない。 だが、無限に眠らないでいることはできない。うとうとする、と思うと引きずり回される、喉の奥にぎざぎざした金属片を押し込まれる、毒針でちくちくと刺される。 すがるようにして、また酒瓶に手が伸びる。 それから誘眠薬。酒と睡眠薬で事故った、あるいは意識的に自殺した人間がかなりいたせいか、効き目がいかんせん弱い。 その分、アルコールの量が増える。効かない効かないと思っているうちにぱたっと意識が途切れた。 喉に吐瀉物が詰まっている。何も食べてないのに吐くものはなぜか出てくる。 激しくむせて、その間は意識がわずかに覚醒した。 背中にまた毒虫がちくちくする針を押し付けてくる。口の中に金属の味がする棘が押し込まれる。その感覚は、覚醒している時の感覚より生々しくリアルだ。 これは夢だと覚醒しようとするが、起きることができない。 目覚めても悪夢だったのが、目覚めない悪夢になった。 目覚めない夢は現実以上のリアルだ。
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