1120人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
私は、まだわけがわからなくて、沢村さんを見上げていた。
「そこまで驚くか?」
沢村さんが腕組みをした。
「まあ、ええわ。会計してくっし、ここにおってな」
会計へ向かう沢村さんの後ろ姿を、眺める。服装がラフなだけでなく、動きが軽やかだ。
レジの列に並んでいる。出口はレジの向こうなので、私もそちらへ移動した。
私はレジからほんの少し離れた書棚の脇に立った。料理や収納関連の文字が目に入る。沢村さんの様子をうかがう。次にはお会計という時に、私に気づいて、笑った。
子供っぽい表情に、私はまた戸惑った。
「飯はすんでんねやろ」
会計を終えた沢村さんが私に訊ねる。
頷いた。「出よ」と声をかけられ、下りのエスカレーターにのった。
前に立つ沢村さんが、振り向いた。エスカレータの段差が身長差をだいぶ埋めるから、顔が近い。ただでさえはやい鼓動がさらにはやまる。
「こっからどうしよ。昨日の話も聞きたいしなあ」
外に出る。沢村さんが立ち止まって、腕組みをした。
考え込んでいる。突然私を見た。
「考えんの邪魔くさいわ。徒歩圏内やし、俺んちでええな」
沢村さんは私のこたえを待たずに「こっちやで」と歩き始めた。とにかくついて行く。
「今日は、輪をかけて大人しいな」
沢村さんに言われた。私は、そう大人しい方でもないと思っている。半分パニックに陥ってるせいで、言葉が出てこないだけだ。
眼鏡をかけていないけれど、確かに同じ顔をしているし、服装はまったくテイストが違うけれど、背格好は同じだ。
それなのに、目の前にいる人が、沢村さんだと信じ切れなかった。
少女漫画でありがちな『白王子』『黒王子』と呼ばれる性質の違う双子キャラ並みに違う。
最初のコメントを投稿しよう!