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数日前までは、尖った冷たい風に揺れていたはずの枝先。
愛らしいピンク色の花弁は、柔らかく温かい世界に包まれている。
ようやく訪れた春の空に花開いた桜は、凍てついた冬ですっかり丸まった人々の背中をまっすぐにし、重く湿った踵を軽やかに変えてくれた。
「お花見に行きたいプギ」
コブタのチャーコが、オレの暮らすアジトのドアを叩いた。
「オレは世界を救うのに忙しいニャ」
「今日は天気もいいし、お花見日和プギ。ハチの握ったおにぎりと、カイの焼いた玉子焼きもあるプギ」
チャーコの飼い主が作った、お花見弁当には、心惹かれてしまう。
「読書のついでならいいニャ」
読みかけの本を片手に、近くの公園まで向かった。
満開の桜を愛でながら、笑いあう親子や夫婦、仲間達。
平和が溢れた世界に目がくらんだ。
人知れず、世界を救うために戦うオレは、花開くだけで人々を平和にしてしまう桜に、嫉妬してしまう。
ある時は、読書ぬこ。ある時は、チャーコの遊び相手。ある時は、エージェント。そして、また、ある時は……
オレの秘密が知りたければ、マティーニを用意してくれたまえ。
ステアじゃなくて、シェイクでニャ。
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