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「そりゃそうよね。そんなわけないと思った」
「違うんだよ、だから俺・・・」
「私、時間ないから。敬ちゃんも遅刻しないでね」
彼女は行ってしまい、敬は黙ってその背中を見送った。
「ねえ、大丈夫? もしかして昨日の夜、姪子さんと何か約束してた?」
「そうじゃなくて・・・」
部屋に戻って話を聞いた。近頃帰りが遅くなった姪子さんを心配して彼女の祖父、つまり敬の父親が注意したら口論になって、宥める為に彼女の祖母、つまり敬の母が余計なことを言ったのだという。
「敬みたいに結婚するまでそういうことはしないって決めて未だに独身っていうのも困ったものだから、まあ上手いことやりなさいなんて言っちゃって」
なるほど。それで嘘つきか。
「どうしよう。あの子になんて言ったら・・・」
確かにもう嘘になってしまったけれど、その嘘の罪を軽くするにはどうしたらいいかと考えながら愛しい敬を眺めていたら、答えが見つかった。
「ねえ、婚約しない? 婚約したから解禁したって言えばいいんじゃない?」
「え・・・それは・・・そういう話にしようってこと?」
本気でわからないのか、瞬きせずに大きな目で見詰める彼を抱き寄せて、わかるようにもう一度提案した。
「また嘘をつく気? 本当に結婚しようよ。ダメ?」
「ええっ、唯、俺と結婚してくれるの?」
「うん、したい」
「ホント? じゃあしよう、すぐ、しようよ」
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