夏日

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 それからどのくらいの時間が経ったのかわからないが、深い眠りからふっと意識が浮上する。まどろみの中で微かに断続的に響く鈍い音が聞こえた。けれどその音がなんなのか、眠気を催す頭ではよくわからなかった。しかし隣で眠っていた藤堂が身体を起こすと、その音は鳴り止んだ。僅かにベッドのスプリングが沈み、藤堂が端に腰かけたのを感じる。そして小さな声でなにか話しているのが聞こえた。  ぼんやりとした視界に映る空間はまだ真っ暗で、時間は深夜だというのがなんとなくわかる。こんな時間に誰と話をしているのだろうと、そんな想いが心の中に浮かぶけれど、気怠い身体は思うようには動かず、腕を伸ばして藤堂に触れることもできない。うつらうつらしながら目の前の背中を見つめているうちに、次第にまた僕は眠りに落ちていった。 「……んっ」  次に僕が目を覚ました時には、部屋の中は微かに明るく、カーテンの隙間から光が漏れ射し込んでいた。そしてそれに気がつき、重い瞼を上げ僕は目を見開く。目の前に昨日僕を抱きしめてくれていた藤堂の姿はなく、ベッドの上にはぽっかり一人分の空白があるだけだった。そっとシーツに手を伸ばすとそこはひんやりとしている。  慌てて身体を起こして辺りを見回す。ふいに視界に入ったサイドテーブルの上には、充電器に繋がれた僕の携帯電話があった。しかしもう一本あるコードの先にはなにも繋がれていない。 「藤堂?」  静かな空間に不安が募る。  けれど急に鳴り響いた甲高い音に肩が跳ね上がった。その音に驚いてそれを振り返ると、目覚まし時計が六時であることを告げている。
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