たった一つ、大切な恋

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どうしよう。 自分から、触れてしまった。 私が瀬名さんの腕を咄嗟に掴んでしまったことで、彼の動きが止まった。 「どうしたの?」 「……っ、す、すみません!あの……」 なぜ、手を伸ばしてしまったのか。 その答えは、私だけが知っている。 言葉にしなきゃ、何も伝わらないんだ。 「こ、今夜……遅くなりますか……?」 いつまでも、瀬名さんの好意に甘え続けるわけにはいかない。 真剣に好きだと言ってくれている人に対して、これ以上卑怯な態度は取りたくない。 「瀬名さんに……話したいことがあります……」 すると瀬名さんの手が、私の頭を優しく撫でた。 「今夜は、早く帰るよ」 「……ありがとうございます」 どうなるかは、わからない。 もう二度と、この優しい笑顔を見れなくなるかもしれない。 瀬名さんの好意が、消えてなくなってしまうかもしれない。 それでも、私はもう逃げない。 この先、自分の気持ちに嘘をついて生きていきたくはないから。 前を向いて、生きていきたいから。
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